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弁護士による従業員支援プログラム(EAP)について
弁護士による従業員支援プログラム(EAP)について
企業が従業員に対する福利厚生を充実させるためには「従業員支援プログラム(EAP)」の導入が非常に効果的です。
EAPと言えば、医療機関やカウンセラーなどによるメンタルヘルスケアのイメージも強いのですが、実は、弁護士による法律相談サービスを実施する手法もあります。
1.EAPと法律相談サービスについて
1-1.EAPとは
EAPとは「Employee Assistance Program」のことであり、日本語に訳すと「従業員支援プログラム」です。
企業が自社内の従業員に対し、カウンセリングや医師による相談を実施したり、外部機関と連携して相談や必要なメンタルヘルス治療を受けさせたりして、従業員のストレスの憎悪を防ぎ、企業全体の利益を守ることを目的としています。
もともとは、主に従業員のメンタルヘルスケアのためのシステムでしたが、最近ではサービス内容に広がりを見せており、企業が自社の従業員に対し、より豊かなライフスタイルを提供する目的のものも現れています。
その一環として「弁護士による法律相談サービス」があります。
1-2.弁護士による法律相談サービス
弁護士による法律相談サービスによるEAPとは、どのようなことなのでしょうか?
これは、企業内の従業員が、いつでも個人的な問題について、弁護士に相談できるシステムです。
弁護士による法律的なアドバイスの必要性
従業員は、その人生においてさまざまな悩みを抱えるものです。
たとえば、離婚や相続、交通事故、金銭問題などを抱えている場合、カウンセラーに相談しても十分な回答は得られないでしょう。病気や怪我ではないので、医師に相談してもやはり解決にはつながりません。
法的トラブルに対しては、法的な対応が必要であり、弁護士による法律相談が必要となります。
法律相談により、従業員の抱える問題を根本的に解決できる
法的トラブルを抱えていると、本人は非常に気分が滅入るものです。四六時中その問題で頭がいっぱいになり、他のことを考えられなくなるケースもあります。
不眠になって仕事のパフォーマンスが落ち、ミスが増えたり人間関係でトラブルを起こしたりすることもあります。 このようなとき、法律の専門家である弁護士に相談すると、解決への見通しや今やるべきことがわかり、安心できるものです。
相談だけで解決できない場合、弁護士がご本人の代理人となって法律トラブルの解決に取り組むことも可能です。 このように、従業員に法律相談サービスを提供することにより、精神的に安定するのでメンタルヘルス疾患にもかかりにくくなりますし、業務にも集中できるようになります。
法律相談によるEAPを、企業の福利厚生制度、メンタルヘルス対策の一環として導入する価値が高いと言えます。
2.EAPとしての法律相談サービスのメリット
EAPとしての法律相談には、実施企業にとってどのようなメリットがあるのか、より詳しくみてみましょう。
2-1.人材の確保と定着
米国ではフォーチュントップ500の90%の企業が導入している言われるEAPですが、日本ではまだ知名度が高くありません。
しかし、EAPが現代社会の要請に合致していますし、福利厚生制度として優秀な制度でもあります。
そこで、いち早くEAP制度を導入することにより、他社に差をつけて優秀な人材を得られやすくなります。新卒の学生も集めやすくなり、中途採用でも有利になるでしょう。
採用後の人材の定着にもEAPが役立ちます。
2-2.企業全体の生産性の向上
EAPとして法律相談を導入すると、従業員1人1人のメンタルが安定し、仕事に打ち込みやすくなります。また、うつ病などで休業する人も減ることが期待できます。
言うまでもなく、会社の力は従業員1人1人の力の集合です。そこで、1人1人のストレスが減って生産性が上がれば、企業全体の生産性の向上につながります。
2-3.法令遵守
現在、一定以上の規模の企業にはストレスチェックや従業員のメンタルヘルス対策が義務づけられています。
しかし、具体的にどのようにして従業員のストレスを軽減すれば良いのか、迷っている企業も多いのではないでしょうか? 人は離婚や相続、借金問題など、各種の法律トラブルを抱えると大変ストレスを感じ、うつ病などになってしまう方も多いのが現実です。
こうした法律トラブルは早期に解決するとダメージが小さく済みますが、放置すればするほど悪化して深刻な問題に発展する傾向があります。
EAPによって気軽に弁護士の法律相談を受けられるようにしておくと、従業員が個人的な相続、離婚などの深刻なトラブルを抱えた際にも早期に対応できて、状況が悪化しにくいです。
つまり、いち早く弁護士が介入することにより、従業員の生活状況が常に安定したものとなり、ストレス要因を小さくすることができます。
このことは、企業に要求されている従業員のメンタルヘルス対策の一環となりますし、それだけではなく、企業に法律上要求される「安全配慮義務」の遵守とも評価されます。
つまり、法律相談サービスを導入すると、企業が各種の法令を遵守することにつながるのです。コンプライアンスが重視される現代社会では、非常に大きなメリットと言えるでしょう。
3.法律相談を受けたい従業員はどのくらいいるのか?
法律相談EAPの導入を検討されるとき「実際に、法律相談を受けたい従業員はどのくらいいるのだろうか?」と疑問を持たれるかも知れません。
一般社会では「弁護士の法律相談」というと、敷居が高くなかなか自分から法律事務所に問合せができない方が多いです。 実際に弁護士事務所に来られる方も、ずいぶんと1人で悩み続けて問題が大きくなった頃にようやくご相談にお見えになるので、弁護士としては「もっと早くご相談に来られれば良いのに」と考えてしまうものです。
ただ、そのような方も、本当は「もっと気軽に早期に相談できる場所があれば、とうの昔に行っていた」とおっしゃいます。
また、「実際に弁護士事務所に足を運ぶことのハードルが高い」という方も多いです。「電話やメールで気軽に相談できるなら、是非とも利用したい」と言うのです。
それではもしも、勤務先の企業が法律相談EAPを導入していたら、どうでしょうか? 毎日通っている企業で
「無料で弁護士に相談できるサービスを実施している」
「弁護士は会社の弁護士だから安心感がある」
「相談した内容は誰にも知られない」
「電話やメールで気軽に相談できる」
このようなサービスがあったら、ちょっとしたことでも「相談してみようかな…」という気持ちになるものです。 実際、法律相談の需要は非常にたくさんあるのです。
4.EAPによる法律相談の仕組みと方法
企業がEAPによる法律相談を導入するとき、どのような仕組みになっていて、従業員が具体的に法律相談をどのようにして利用できるのか、ご説明します。
4-1.企業と弁護士の契約締結
EAPを導入するときには、まずは弁護士と企業がEAPの契約を締結します。
契約内容は、弁護士が企業の従業員による法律相談に無料で対応すること、企業は弁護士に料金を支払うこと、弁護士は法律相談を受けたらその件数を企業に報告することなどが骨子です。
そして、企業はEAPによる弁護士の法律相談制度を導入したことを社内に周知します。
4-2.従業員による法律相談
法律相談を利用できるのは、基本的に従業員本人や配偶者です。
離婚や業務上のトラブル、借金問題や交通事故問題などを抱えて弁護士への相談を希望する従業員がいたら、本人が直接弁護士にメールや電話、FAXなどで連絡を入れて、相談内容を送信します。会社には連絡をしません。
そして弁護士が相談者に対して直接回答をします。相談だけであれば無料です。
4-3.相談だけでは解決できない場合
別途示談交渉や訴訟などの法的な対応が必要になった場合には、本人と相談の上、費用を払ってもらって手続きを進めていくことも可能です。その際の費用について、企業が援助することも自由にできます。
4-4.弁護士による報告と費用の支払い
弁護士は、契約企業に対し、相談状況に関する報告をします。
そこには、ジャンル別(家事、交通事故、借金、刑事事件、不動産トラブルなど)の相談件数を記載し、個別の相談内容については報告しません。
次にご説明する通り、弁護士には守秘義務がありますし、相談内容を企業に秘密にしないと従業員が安心して相談することができないからです。
また、企業は弁護士に対して毎月EAPの費用を支払います。金額は、従業員1人あたりで計算し、当事務所の場合には1人100円(税別)と設定しております。
このように、従業員への周知、従業員による相談、企業による費用の支払い、弁護士による相談状況の報告、というサイクルで実施していくのがEAP法律相談の基本的な仕組みです。
5.EAP法律相談サービスの留意点
EAP法律相談サービスを運営していくとき、いくつか注意点があるのでご紹介します。
5-1.個人情報保護、守秘義務について
まずは個人情報保護や守秘義務についての注意点です。
企業には個人情報保護法が適用されて、従業員の個人情報を他に漏らすことなどが禁じられますが、弁護士にも厳しい「守秘義務」が課されます。
つまり、弁護士は相談者や依頼者からの相談内容を、一切他に話してはならないのです。それは、契約企業や相談料、依頼料を支払う人に対しても同じです。
そこで、従業員からご相談を受けた場合、その相談内容を企業に報告することはできません。企業が求めても開示はできないので、EAPの契約を締結するとき、その点は留意しておく必要があります。
5-2.利益相反について
次に、利益相反の問題があります。利益相反とは、弁護士が利益の相反する両者から相談や依頼を受けることです。
弁護士は、利益相反の可能性のある事項について、相談を受けたり受任したりすることが許されません。そのようなことをすると、どちらに対しても有効な弁護活動を行うことができないためです。
そこで、企業が弁護士とEAP契約を締結していたり弁護士が企業の顧問となっていたりする場合において、従業員が企業への責任追及するための相談をすることなどはできません。
たとえば、従業員が企業の安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求をしたいと考えている場合、残業代請求をしたいと考えている場合などの相談は受けられません。
また、従業員同士のトラブルにおいても利益相反の問題が発生します。利益の相反する両者が相談してくる可能性があるからです。
利益相反の可能性のある相談を受けた場合、弁護士は「利益相反の可能性があるので、回答はできません」というお返事をすることになります。
5-3.限られた情報にもとづく回答であること
EAPによる法律相談は、メールや電話、FAXなどによるものが主となります。このような手段は手軽ですが、情報内容がかなり限定され、事実の一面しか伝えることができません。
回答内容も、提供された情報のみによって行われるので、一面的なものとなる可能性があります。より詳しく正確な回答を求める場合には、面談による法律相談が必要です。
以上が弁護士による法律相談EAPの概要と仕組み、利用方法です。
これからの企業のあり方を考えるとき、ストレスチェックやコンプライアンスなどの観点からしても従業員への福利厚生の充実は非常に有効な対処です。
当事務所には臨床心理士・公認心理師も在籍しておりメンタルケアについても対応可能ですので、一度お問い合わせいただければ幸いです。
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